大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2382号 判決 1978年7月27日

控訴人(附帯被控訴人)

X

右訴訟代理人

野村孝之

塩谷寛司

被控訴人(附帯控訴人)

Y

右訴訟代理人

藤井博盛

右訴訟復代理人

佐伯康博

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人に対し、金二九九万二二五六円及びこれに対する昭和四八年一月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用(控訴人と被控訴人との間に生じた部分に限り、附帯控訴費用を除く。)は、第一、二審を通じてこれを四分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とし、附帯控訴費用は、被控訴人の負担とする。

四  この判決は、第一項1に限り、仮に執行することができる。

事実

一  申立て

1  本件控訴について

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、金一六一六万六一三七円及びこれに対する昭和四八年一月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

2  本件附帯控訴について

被控訴代理人(附帯控訴代理人)は、「原判決中被控訴人(附帯控訴人)敗訴の部分を取り消す。控訴人(附帯被控訴人)の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。」との判決を求め、控訴代理人(附帯被控訴代理人)は、附帯控訴棄却の判決を求めた。

二  主張及び証拠

当事者双方の主張及び証拠の関係は、左記のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおり(原審相被告川原敬子のみに関する部分を除く。)であるから、これを引用する(ただし、原判決二枚目裏一〇行目中「右運転車」とあるのを「右運転者」と訂正する。)。

1  主張

(一)  被控訴代理人は、次のとおり述べた。

控訴人は、本件事故により、自動車損害賠償保障法による損害賠償額の支払(以下「自賠責保険金」という。)として、原判決認定の金五〇〇万円のほかに金五〇万円、合計金五五〇万円の支払を受け、また、労働者災害補償保険法による保険給付(以下「労災保険給付」という。)として金一八一万四四二〇円の支給を受けているので、仮に被控訴人が損害賠償義務を負うとしても、右金員相当額は被控訴人の賠償すべき損害額から控除されるべきである。

本件事故による負傷のため控訴人において要した治療費の総額が控訴人主張のとおりの金額であることは認める。

(二)  控訴代理人は、次のとおり述べた。

控訴人が被控訴人主張の金員を受領した事実は認める。ただし、自賠責保険金のうち、金五〇〇万円は後遺障害の補償として受けたが、その余の金五〇万円は治療費として受けたものであり、労災保険給付のうち、金七三万九二〇〇円は休業補償として受けたが、その余の金一〇七万五二二〇円は治療費(療養補償)として受けたものである。

控訴人は、本件事故による負傷のため総額金一五七万五二五〇円の治療費を要し、前記金員のうち金五〇万円及び金一〇七万五二二〇円はこれに充てたものであるから、これらの金額相当分は本訴請求に係る損害額から控除されるべきではない。

2  証拠<省略>

理由

(原判決の引用)

一事故の発生、責任原因及び控訴人の受けた損害に関する当裁判所の判断は、原判決がその理由一ないし三(一〇枚目表二行目から一三枚目裏四行目まで。ただし、二の(二)を除く。)において説示するところと同一であるから、これを引用する。

(過失相殺)

二本件事故は、被控訴人が、加害車を運転中、事故現場である東京都杉並区方南町一丁目三〇番七号先交差点の北側手前約二〇メートルの地点において、東側道路から右交差点内に進入すべく一時停止している被害車を認めながら、同車のその後の動静に十分な注意を払うことなく漫然と時速三〇ないし四〇キロメートルの速度で南進を続け、その直後右交差点に進入してきた被害車の発見が遅れたことによるもので、被控訴人の左前方不注視の過失はこれを否定すべくもないが、一方被害者たる控訴人についても、同人が被害車を運転して右交差点に進入する直前いつたん停止しながら、右方道路に対して十分な注意を払うことなく、北側から右交差点に向けて直進してくる加害車に気付かないまま、漫然と被害車を発進させ同交差点に進入して左折を開始した点において、その右方不注視の過失が大であることを免れない。そこで、右事実関係の下における両者の過失の程度を対比するとき、その割合は被控訴人四に対して控訴人六と認めるのが相当である。

(損害賠償額の算定)

三1 前記認定(原判決の理由三)のとおり、本件事故との間に相当因果関係を認め得る控訴人の逸失利益は金一九一九万一四四〇円であり、控訴人に対する慰藉料は金五〇〇万円を相当とするから、その合計額は金二四一九万一四四〇円となり、控訴人において本件傷害の治療のため金一五七万五二五〇円を要した事実は当事者間に争いがないから、この額を加算すると、以上の合計額は金二五七六万六六九〇円となり、これをもつて本件傷害事故による相当の損害額とすべきである。

2 前記二のとおり被控訴人の過失割合はこれを四割と認めるのを相当とするから、被控訴人は、控訴人に対し、相当の損害額たる1の二五七六万六六九〇円の四割に当たる金一〇三〇万六六七六円を賠償すべきこととなる。

3  控訴人が自賠責保険金として金五五〇万円、労災保険給付として金一八一万四四二〇円を受けたことは、当事者間に争いがない。

控訴人は、右のうち治療費に充てる趣旨で支給を受けた自賠責保険金の一部金五〇万円及び労災保険給付の一部金一〇七万五二二〇円は、本件請求に係る損害額から控除すべきでないと主張する。

しかしながら、休業又は後遺障害による得べかりし利益の喪失(逸失利益)と治療費ないしは療養費とは、本件事故により控訴人に生じた同一の身体障害を理由とする損害の各費目にすぎず、それが数個あることによつて被控訴人が数個の損害賠償債務を負担することになるものでもなければ、被控訴人が一個の債務の弁済として数個の給付をすべきこととなるわけでもない。結局、これらの各損害費目につき計上される金額は、控訴人が被つた損害を金銭的に評価するに際しての資料となるにすぎないものと見るべきである。

したがつて、自賠責保険金又は労災保険給付についても、それが本件事故により生じた身体傷害を理由とする損害のてん補の実質を有するものである限り、当該金員の支給がいかなる給付名義をもつてなされたものであるかを問わず、損益充当に当たつては、全損害に対するてん補がなされたものとして取り扱うのが相当であると考える。

したがつて、自賠責保険金については前記金五〇万円を含めた金五五〇万円、労災保険給付については前記金一〇七万五五二〇円を含めた金一八一万四四二〇円、合計金七三一万四四二〇円の全額を、本来被控訴人が控訴人に対して賠償すべき金額(治療費に係る分を含む。)から控除して、損害賠償額を算定することとする。

4 そこで、2において算出した金一〇三〇万六六七六円から3記載の金七三一万四四二〇円を控除すると、その結果は金二九九万二二五六円となり、これが控訴人において被控訴人に対して賠償を求め得べき損害額である。

(結論)

四以上の次第であるから、控訴人の本訴請求は、被控訴人に対し損害賠償として金二九九万二二五六円及びこれに対する、本件事故発生の日より後の日である昭和四八年一月一一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきものである。

よつて、右の結論を異にする原判決は一部不当であり、本件控訴は一部理由があるから、原判決を右の限度で変更し、本件附帯控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九五条、第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(岡本元夫 貞家克己 長久保武)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例